グラップラー刃牙シリーズ
・グラップラー刃牙
グラップラー刃牙は板垣恵介による格闘漫画。続編に「バキ」「範馬刃牙」「刃牙道」「バキ道」がある。
地上最強の生物「範馬勇次郎」を倒すべく刃牙が奮闘する漫画。
ちょっと気になったところを書きたい。
・地下闘技場編
東京ドームの真下に格闘場施設があって格闘家達が夜な夜な闘いまくってるのだ。刃牙は闘技場のチャンピオン。
ここでは末堂厚、鎬昂昇、マウント斗場との格闘戦がある。渋い人選。
他には愚地独歩、加藤、など神心会キャラや本部以蔵、最強の親父勇次郎登場。まだ世界観を広げていく段階で、キャラクターの性格も不安定。
初期の刃牙は好青年という風潮があるけど、高山先輩の拳を破壊しようとする下りはちょっと悪い感じ出てる。
格闘漫画という題材もあり、本作では筋肉隆々なキャラクターが多く登場する。
例としてビスケット・オリバが有名で、筋肉を開放すると刑務所を飲み込むようなイメージ描写すらある。
その半面、各キャラクターの瞳やまつげは女性的なイメージで描かれていることが多いと感じる。
(確か船越英一郎との対談番組で本人も同じような事を言ってた記憶がある)
作者は画家のおおた慶文氏の影響を受けていることもあり、刃牙の絵柄も初期は特に丸っこい。
バキ中期辺りまでは丸っこいデフォルメ顔もよく見られた。
独歩対勇次郎。これも刃牙シリーズによく見られる手法で、主人公不在の格闘戦。
独歩も善戦するものの、鬼の顔が出て一撃で屠られる。勇次郎の初陣であり、デモンストレーション的な戦闘だがピンチ顔もあり笑える。
最強の医者紅葉先生も登場。独歩も蘇生。ここのエイエイオーの下りは実に少年漫画的なテンションの上げ方で熱い。
地下闘技場編最終戦の紅葉対刃牙では打震、剛体術などの必殺技も登場。
・幼年編
刃牙の中学生編。刃牙のデザインが一新されて、赤髪のやんちゃっぽい子になる。地下編より表情豊かで、コマ内を所狭しと動くので見てて面白い。
中学生という事で大半の敵キャラが刃牙より大きい。超えるべき壁としての視覚効果がしっかり得られていると思う。
また、この章の構成は一本筋が通っていて、最後の展開は涙なくしては見られない。母親の江珠の登場はこの章のみだけれど存在感は強烈。
このあたりからハッタリが効いた敵キャラクターや描写が多く登場する。
まずvs不良100人。目の前の4人を倒せれば、相手が何人でも関係ないといった理論を我々は幼年編を通して学ぶ。
作者曰く、不良、猛獣、ヤクザ、軍隊は最強を目指す際の障害だという事で、飛騨山脈で猛獣と格闘。
次はゲームセンターで最強のヤクザ花山薫と格闘。北海道にて自衛隊5人組と格闘。と順当にレベルアップしていく様はRPGのよう。
しかし、最終戦で手痛い敗北を期する事となる。
戦闘描写、トーンワーク、透過擬音やコマ下段を地面に見立てた立ち絵(対戦格闘ゲームっぽい感じの配置のやつ。
実際ストリートファイターのイラストを描いていたから影響はあったのかもしれない)など前章より洗練されていて何回読んでも飽きない。
今では見ない表現で、セリフの写植とキャラが被ってる演出も勢いがあって好きだった。
ただ幼年編は全般を通して殺伐をした空気が流れていて重い。容赦ない人体破壊や、自衛隊が食人行為を行っているようなセリフ
猛犬と戦わされてる回想、クライマックスの展開などなど際どい描写がエスカレートしていく。
逆に言えば数コマで世界の奥行きが広がる良描写とも言える。
餓狼伝のクライベイビーサクラも刃牙と同じく母を追いかける息子であり、母の為に強くなるキャラクターだった。
板垣世界の母親はエキセントリックな人が多く、マトモなのは克巳母くらいだろうか。
そんな振り向いてくれない母親が最後の最後、理屈ではなく本能であの行動を起こす。
時間軸は闘技場編に戻り、最大トーナメント編へ。
・最大トーナメント編
この章は少し変則的で、殆ど刃牙個人の縦軸のストーリーは進行しない。宿敵勇次郎との闘いも無い。
地下闘技場編の延長としてここではあらゆる格闘家達が登場する。
ひたすら格闘家の試合をトーナメント形式で行わせる関係上刃牙以外の格闘がメイン。
お互いの来歴を表すエピソードから実際に対決。勝負が付いたらすぐ次の格闘家のエピソード&闘い。ちょっとした短編集のような趣すらある。
ちょいちょい外国人のキャラも登場。外国ドラマのような台詞回しが上手。
今ではお馴染みの渋川先生や烈海王、ジャックハンマーもここから登場。登場したキャラクターが便利すぎてこの先も酷使させられる。
最終戦の構成は回想が挿入されて長かったものの、結構好き。
範馬の血を継ぐ兄と弟。母親のエピソード。
そして死を覚悟し、明日を捨て力を得たジャックが刃牙のネックフロントロック(グラップル!)で締められ、最後の最後で数秒後の未来を考えてしまった。
その瞬間、ジャックは敗北する。キャラクターの属性や思考に沿った、負ける理由としては納得の理屈でオチが付いていて結構好き。
最後に勇次郎が美味しいところ持っていって次の章へ。
・死刑囚編
世界各国の最強の死刑囚五人が東京に集結。合言葉は「敗北を知りたい」
このハッタリの効き方がさすが板垣先生といったところ。
これまでの刃牙の闘いには父親を超える、最強を目指す、といった闘うだけの理由が用意されていた。
この章ではそれらの理由が少し弱い。本人も最初からそんなにやる気無しで受動的なキャラになっている。
その代わりに刃牙以外の闘いが多い構成になっている。
また、ここから板垣哲学が表に色濃く出てくる。死刑囚編を難解にさせているキャラクターといえばドリアンだろう。
アメリカの老年の死刑囚ドリアン。キャラデザインはショーン・コネリーがモデル。物静かそうな風貌からは裏腹にダーティーな闘い方で、卑怯なキャラクターだ。
その上、異常な程タフで耳を千切られても、ガソリンで焼かれても、腕が爆薬で吹っ飛んでも平気という格闘家を超えたフリークス性を見せてくれた。
途中で中国拳法の達人、ドリアン海王であることが判明。
アラミド繊維あり、嘘泣きあり、中国拳法あり、歌あり、催眠術あり、手榴弾あり、毒瓶あり、仕込み爆弾あり、と設定が渋滞しまくるドリアン海王。
神心会連中と闘い、最後に烈が引導を渡すべく同門対決。
敗北を望んでいたものの、今まで敗北したことが無い。つまり一度も勝ったことが無い。
正直ここら編の理屈は分かりづらい。けどキャンディ…の下りで泣けるからOKか。
板垣漫画というか格闘漫画通しても珍しい造形のキャラクターだと思う。
色々な敗北の形を死刑囚五人を通して描いた死刑囚編。その後シームレスに擂台編へ移行。
何でもアリは何でもアリすぎてプロでも処理が難しいのだろう。
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※うわさ
(1)死刑囚がメインという事で、殺しちゃう話を考えていたけど論理的な面で編集からストップ。
(2)シコルスキー戦は猪狩のリベンジ戦の筈だったけど、アシスタントがネット掲示板にネタバレして、展開を変えた。
↑どっかで聞いたうわさ。
あと他にも本人の怖い噂も聞いたことあるけど、怖いので言いません。
梶原一騎と矢沢永吉の影響がある先生。男らしいイメージとしてどっかで創られた伝説なの。どうなの。
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・擂台編
ここら辺から刃牙シリーズの雲行きが怪しくなってきたと個人的には考えている。
導入の時点で何だかよく状況が呑み込めないのだけれど、まあ解毒の為に大会に出場する刃牙。
中国武術界の最高峰達が登場!と謡いつつ、全部オリジナル拳法なんだもん。(ちなみに海王の名前は太極拳の流派由来)
でも今考えると実在の流派を下げるような描写はクレームくるかな。実際に某空手道場からは怒られたらしいし。
最大トーナメントを中国武術縛りでやり直す意味もない気がするしな。
構成は無茶苦茶なんだけど格闘描写は結構面白いと思う。
オリバ&ドリアン
上でドリアンのモデルはショーンコネリーと書いたけど、実はもう一人モデルになっているであろう人物がいる。
ミスターオリンピアのドリアン・イェーツだ。
徳川家でガソリン攻撃を食らった後に意味深なポージングを取っているが、元ネタのボディビル要素を漫画内に収めたものと思われる。
オリバの元ネタはセルジオ・オリバだろう。こちらはモロにそのままそっくりさんとして登場。
つまりこの二人が登場する楊海王戦は、ボディビルダー(ミスターオリンピア)という元ネタまで含めたバトンタッチという描写だったのだ。と考察。
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