★ボールペンのトラブル

ボールペンの主要なトラブル・取扱時の注意点をまとめる。
ボールペンの構造解説と内容が重複する箇所が多いが改めてここで整理する。

■(1)インク残量が不足
まずインクは入っているか本体の中の替え芯をチェック。
チップの下の方までインクが来ていると、見た目ではインクが残っているように見えても内部ではインクがなくなっている場合もある。
ペンの種類により筆記距離は様々でインクが同質ならば長い芯より短い芯が、また、同じ形状であれば筆記線の幅が細いものより太いものほど、インクは早くなくなる。
水性ボールペンではキャップをはずしたままにしておくと、チップの中でインクがドライアップ(乾燥による故障)して書けなくなることがあるので注意。

■(2)経年劣化
ボールペンのインキは、長い時間がたつと溶剤が蒸発して徐々に書きにくくなる。
置かれている環境で異なるが製造後油性ボールペンなら約3年間、水性ボールペン(ゲルインキを含む)なら約2年間が快適に使用できる目安になる。

■(3)インク中に空間ができている。空気が入っている
次のような使用をした場合空気が入り込みインキの逆流が起こり、筆記できなくなる恐れがある。
ペンを水平より上向きに筆記した時 壁にかけたカレンダーに記入、手に持った手帳に記入などキャップを外した状態・ノックをした状態で、ペン先を上にしたままポケットなどに入れる。
激しく振ったり、落下などで衝撃を与えたりした場合インキが途切れると筆記不可となる。
直す場合はリフィル尾端からペン先へ向けて、インクが噴き出すほどの強い圧力をかける必要があり、家庭での回復は難しい。インキが尾端から流れ出ることがあるので汚損に注意。

■(4)筆記線が擦れてしまう(チップ破損)
線に濃淡ができる、逆にペン先に溢れるほどインクが溜まるなどの不具合の症状はペン先(チップ)先端に傷がついていると発生する。
ペンの先端(ペン先)は薄い金属のパイプの先に微細なボールが組みつけられており、ペン先のボールとホルダーとの隙間は均一という非常にデリケートな構造をしている。
そのため、ペン先で物を突いたり、金属製の定規で線を引いたり、また、ペン先から床に落すだけでもペン先は簡単に傷ついてしまう。
ペンを落とす、打ちつける等のショックを与えないよう大切に取り扱うのが重要である。
ホルダーが変形して一部分だけ狭くなるなどしてボールが均一に回らない状態になると、筆記線はかすれる。またボールが回らなくなるとインクが出なくなる。

■(5)かしめ部の破損

ペンをあまり寝かせて書くとボールを保持する部品が紙面で摩耗し、傷が付いた時と同じようにインクが出なくなる場合がある。60°以上の筆記角度で筆記するのが理想的。
多色・多機能ペンのボールペンは、軸の中心から離れた位置に各色の替芯が装着される。そのため、ペン先を繰り出した際は、各色のペン先が軸の中心に向かって少し「斜め」になる。
これにより、単機能のペンではある
程度寝かせても問題なく筆記できる角度でも、多色・多機能ペンでは「筆記面に近い側の替芯だけ」が、さらに寝かせた角度となり、「寝かせ書き」と同じ現象を起こすことがある。

■(6)筆記線にインクのかたまりがでてしまう
主に油性ボールペン。ボールの回転が一定方向に続くと、インク溜り(ボタ)が発生しやすくなる。本体の持つ位置を時折り変えると多少軽減される。次のような場合に発生しやすい。

筆圧が弱い場合 や 筆記する紙が薄い場合:筆記するときは、ペン先のボールが紙面に少し沈み込み(紙面を凹ませ)ながら、ボールが回転する。
筆圧が弱かったり、紙が薄くさらに下敷きが硬かったりすると、ボールが紙面に沈み込む量が少なくなり、ボールと紙が接する面積も少なくなる。
そのため、ペン先に戻るインクの量が多くなり、インクが溜まり易くなる。

直線を引く場合:直線を引く時は、ペン先のボールが一方向にしか回転しなくなる。そのためペン先へ戻るインクも一方向に集中し、インクが溜まり易くなる。
この場合は、ペンの軸を少し回転させるように直線を引くことで、発生を抑えることができる。

ペンを寝かせて書く場合:ペンを寝かせて書くとボールと紙が接する面積も少なくなります。そのため、ペン先に戻るインクの量が多くなり、インクが溜まり易くなります。
ボールペンは紙の上でボールが回転する60°以上の筆記角度で筆記するのが理想的。

ゆっくりと筆記する場合:ペン先が紙面に触れるとペンの中からインクが引き出される(毛細管現象)
ゆっくり筆記をするとこの毛細管現象により、必要以上にインクがペン先へ向かって供給されるため、インクが溜まり易くなる。

■(7)紙の巻き込み
感熱紙やFAX用紙のように表面がコーティング加工された紙に筆記した場合、ペン先によって削り取られたコーティング材が先端内部に巻き込まれたり、挟み込まれたりして書けなくなる場合がある。
また、普通紙でも紙の表面の紙粉を巻き込んだり挟み込んだりして書けなくなる場合がある。
通常、巻き込みは一時的なもので、紙粉はボールの回転でインクと共に紙面へ出てくるが、多くの紙粉がペンの先に入ることでインクの流路へ紙粉が詰まり、書けなくなることがある。

多くの紙粉が発生する主な原因は、次の通り。それぞれが原因であったり、複合する場合もある。

ペンを寝かせて書く場合:ペンの先のボールを支える部品が紙面を引っかき、紙粉が発生しやすい。ボールペンは紙の上でボールが回転する60°以上の筆記角度で筆記するのが理想的。

ペンを押し出すように書く場合:左利きの方に多い書き方で、寝かせて書く場合と同様にペンの先のボールを支える部品が紙面を引っかくことで紙粉が発生しやすくなる。
筆圧が高い場合・厚い紙や柔らかな下敷きを使って書く場合 ペンの先が紙に沈み込むことで、ボールを支える部品が紙面を引っかき、紙粉が発生しやすくなる。

筆記速度が速い場合:ペンの先のボールの回転速度に、インクの流れ出す量が追い付けず紙粉を十分に出せなくなることがある。

乾燥し毛羽立った紙面や、湿度の上昇などで強度が低下した紙面に筆記した場合 紙の種類や状態によって、その繊維(紙粉)がボールと受座のすきまに巻き込まれ、
これによりインキの出が悪くなったりボールが回転できなくなって書けなくなる場合がある。
また、CDやDVDのレーベル面などや、感熱紙、インクジェット紙に書いた際にも、表面のコーティング材が巻き込まれペン先にたまってしまい、書けなくなる場合がある。

紙粉の詰まりが繰り返し起きる場合は、次のボールペンへの変更で改善される場合がある。

ゲルインクや水性のボールペン 油性ボールペンよりインクの流量が多いため、一時的にペンの先に巻き込んだ紙粉がインクと共に紙面へ出てきやすくなる。
より大き目のボール(太め)のペン ボールが大きいため、ペンの先のボールを支える部品が紙面に当たりにくくなる。
ただし、ボールが大きくなることでより多くの紙粉やコーティング剤がペン先に入り、改善に繋がらない場合がある。

■(8)紙の上でボールが回らない(紙質・材質)

ボールペンは、紙の上でボールが回転することでペンのインクが紙へ転写が行われる。
そのため、鉛筆やシャープペンで下書きした箇所や、コート紙やコピーされた紙などの「ツルツルした紙面」では、
ボールが紙の上で回転せずスリップしてしまい、インクが出なくなる場合がある。
また、薄い紙に筆記した場合や筆圧が弱い場合、ボールと紙が接する面積が少ないことで、ボールが紙の上で回転せず、インクが出なくなる場合がある。
ガラスの表面やプラスチックの表面も同じく、ガラスやプラスチックはインクを吸収しないので表面に付いてもインクの表面張力で玉になってしまい、線にならない。
ソフト塩ビのデスクマットなどは、インクを吸収するので書くことが可能。また皮脂が紙に付着した場合もインクを弾いてしまう。

■(9)インク漏れ
先端部の場合 主にチップ部の破壊。ノック式の場合は誤ノックによるインク漏れ。キャップ式の場合はキャップの密閉が不完全の状態によるインクの漏れが挙げられる。
尾端の場合 インク逆流。高温に晒された場合はリフィル内の空気膨張による追従体流失。洗濯機などに入れた場合は遠心力によるインク流失など。
気圧差 直液式ボールペンや万年筆などが該当する。。急に暖かいところや飛行機などの気圧の低いところに移動すると、インクタンク内の空気が膨張し、インク流失に繋がる。

■(10)裏写り
ボールペンは環境インクの種類や色などによって、紙の裏まで描線がにじみ出すことがある。この現象を「裏うつり」や「裏抜け」と呼ぶ。次の場合に発生し易くなる。
気温と湿度が高い場合 紙は、通常ある程度の水分を含んでいるが、気温と湿度の両方が高い環境では紙中の水分量も高まる。
多くの油性ボールペンのインクは色素に染料を使用しており、紙中の水分量が高くなるとこの染料の一部を溶かし出してしまうため、描線が「裏うつり」することがある。
紙が薄い場合 油性ボールペンの場合、インクが乾き難く粘度が高いため、筆記直後の描線は完全に乾いている状態ではなくにじみ難い状態で紙の表面に残る。
この後、インクは時間をかけて紙へ染み込むため、筆記してから数日後に描線が裏写りしている場合がある。
水性ボールペンでは、インクの粘度が低いため、短時間で裏写りし、上述の現象も速まる。

なお、裏写りの程度は紙の性質によって異なる。一般に筆記用紙は、表に書いた描線が裏へ抜けにくく、かつ、裏から見えにくくするために、
様々な成分が含まれているが、インクが染み込みやすい紙質で、紙の厚さが薄ければ、描線は裏写りし易くなる。
ゆっくりと筆記する場合 粘度が低いインクの場合、ペン先が紙面に触れるとペンの中からインクが引き出される。
これはティッシュが水に少し触れただけでも、触れた部分以上の水を吸い取っていく現象(毛細管現象)と同じ。
ゆっくり筆記をするとこの毛細管現象により、必要以上のインクがペン先へ向かって供給されるため、紙がインクを吸収しきれなくなり、
描線が滲み、さらに裏写りすることがある。普段は粘度が高いインクでも、気温が上がると粘度が低下するので注意が必要。
描線を重ねる場合 塗りつぶすように紙面の一部分へ多くのインクを使った場合、紙がインクを吸収しきれなくなることで、描線が滲みさらに裏写りすることがある。

■(11)汚損
1.油性インクで汚したとき 油性ボールペンの油分はアルコールに溶けやすい特徴がある。

皮膚の場合:早めに石鹸などで洗浄する。すぐには落ちない場合もあるが、繰り返し洗ったり入浴等で徐々に落ちる。

紙の場合:インクが紙の内部に浸透し、染まるために落ちない。砂消しゴム等でインクが浸透した紙の表面を削り取る。

布の場合:クリーニング店に相談する。ベンジン等は汚れが広がるので注意。それでも一部汚れが残る可能性がある。

革の場合:インクが内部に浸透し、染まるために落ちない。ベンジンやアルコール等の溶剤は、変色や傷みの原因になるので注意。
小さな汚れには消しゴムでこする、同色の靴クリーム、色鉛筆等で隠すことも効果的。家庭では落とせないと割りきり、クリーニング店に相談する方が良いだろう。

木・石・レンガの場合:材質の凹凸面にインクが入り込むため落ちない。表面が平滑な材質では、雑巾等に洗剤を含ませてこすることで薄くなるが、完全に落とすことはできない。
家具や床材などの塗装、コーティングが施されている材質への溶剤の使用は、十分に注意し、目立たぬ場所で確認してから行うこと。
ガラス・金属・プラスチックの場合 ほぼ完全に落ちる。

1. 雑巾等に水、もしくは洗剤を含ませてこする。

2. 落ちなかった場合は、薬局等で販売している無水エタノールを雑巾に含ませる。

3. 不必要な部分や、目立たないところで、変質等がないことを確認してください。(塗装、コーティング等が施さ
れている材質は特に注意。また、スチロール、アクリル、ビニール、硬質塩ビ等インク自体におかされるような材
質には絶対に使用しないこと)

4. 雑巾に色がつかなくなるまでこする。

2.水性インクで汚したとき
皮膚の場合 早めに石鹸などで洗浄。すぐには落ちない場合もあるが、繰り返し洗ったり、入浴等で徐々に落ちる。

紙の場合 インクが紙の内部に浸透し、染まるために落ちない。

布の場合 汚れは残る。極力インクが乾く前に以下の作業を行う。

(1)材質・洗濯方法を確認し、「水洗いが可能」か「中性のマークがないか」を確認。

(2)アルカリ性洗剤もしくは石鹸を溶かした30〜40℃程度のお湯に浸ける。

(3)もみ洗い(可能であればブラシなどで擦る)、すすぎを繰り返す。

(4)汚れが残っている場合、漂白剤が使用可能であれば、その使用方法に従って浸け置きをする。

革の場合 一部汚れが残る。汚れを広げないように、水を含んだ雑巾を強めに絞って拭く。

木・石・レンガの場合 浸透もしくは材質の凹凸面にインクが入り込むため落ちない。

ガラス・金属・プラスチックの場合 ほぼ完全に落ちる。可能であれば流水で洗浄。もしくは、雑巾等に水を含ませ、拭き取る。

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