★ボールペン解説

●ボールペンとは

筆記具の一種。ball point penの略称。ボールペンは和製英語なので海外製品はボールポイントペンと呼ぶのが一般的。海外のブランドではボールポイントペンという表記が多い。
ペン先部に装着した小さな鋼球(ボール)が回転することで毛細管現象によって引出された軸内のインクが紙に転写される構造のペン。精密機械である。
紙質を選ばず線幅や濃淡がほぼ一定で安定した線が書ける。一方、ある程度の筆圧が必要なものもあり、線が無表情になるという短所もある。
ボールペンには太さ、色、インクの特性、ペン先の出し方などにより多くの種類が存在する。

●インク解説
インクの成分により、明度や色味、耐水性は大きく異なる。ここではそれぞれの性質と長所・短所を表記する。

■インク 
筆記や印刷のための、色のある液体。油性・水性・ゲルなどの様々な種類がある。インクの主な成分は溶剤・着色剤(色素・色材)・樹脂(定着剤・湿潤剤)・その他の添加剤から構成されている。

■溶剤
インクが油性か水性かは使用されている溶剤によって分類される。着色剤に対して「有機溶剤」を使用し、溶かす場合が油性 「水」を使用し、溶かす場合が水性と区分される。
さらに水性インクにゲル化剤を混合したゲルインクが存在する。

 *有機溶剤とは
 他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称 一般にアルコール類。油性インクの場合ケトン、アルコール、 酢酸エチル他が使用されている。
 
■着色剤
大きく染料と顔料とゲルに大別される。
油性と水性のそれぞれにインクの色を決定付ける染料インクと顔料インクが存在する。つまり組み合わせとして
油性×染料 油性×顔料 水性×染料 水性×顔料 ゲル×染料 ゲル×顔料
の六種類が存在する。

 *染料とは 着色に用いる水溶性の粉末。水や油など特定の溶媒に溶解させて着色する。天然繊維の着色などに使用される(藍染など)
 *顔料とは 着色に用いる水や油に不溶性の粉末。塗料や絵の具、ゴムの着色、化粧品等に用いられる。

●着色剤の特徴

■染料インクの特徴
インクの粒子が紙の繊維に浸透する(インクが紙の内部に染み込む) 溶剤である水や有機溶剤に、色素が完全に溶けている状態であり紙に染み込み色を付ける為、発色が優れている。インクの出や書き味が良い。
カラーバリエーションが豊富 着色剤の粒が顔料と比べて小さい。複数の色を混合する事で、比較的容易に新しい色を作ることができる。
万年筆インクでの主流 水での洗浄が容易な為、染料系のインクが多い。
耐水性に劣る:インクの溶媒が水に溶けやすい為、耐水性が低く紙が濡れると滲みやすい。
耐光性に劣る:顔料インクと異なり紙面の分子レベルで染色を行っている。この分子が紫外線(日光・店内照明等)で分解されやすい為、退色してしまう。この為、長期保存に向かない。
 
■顔料インクの特徴
インクの粒子が紙の表面に残る(インクが紙に染み込まず、紙の上に乗るイメージ) 溶剤である水や有機溶剤に、色素が分散している状態。染料インクに比べ浸透性が低いので裏抜けを抑える。
耐熱性・耐光性・耐水性に優れる。
溶剤である水や有機溶剤に色素が溶けておらず、溶剤が蒸発した際に顔料粒子が紙面に付着・固定する。このために優れた耐水性を持つ。また紫外線を受けても化学反応しない為、耐光性にも優れている。       
沈殿する ボトルインクやカートリッジ内のインク成分が分離、沈殿するケースがある。
万年筆での使用の際はメンテナンス必須 顔料インクは非常に水に強く、溶けにくい為にドライアップ(インクの乾燥による故障)時の洗浄が困難。
クリーナー・洗浄液等を用いてのメンテナンスが必要となる。ただし筆跡の耐水性や耐光性、発色、書き心地などに数々のメリットもある。
 
●溶剤・各種ボールペンの特徴

■油性ボールペン
ボールペンの中でも最も古典的であり、1930-1940年代にビーロー・ラースローによって開発された。インクの溶剤として有機溶媒(アルコール等)を用いたボールペンのことを指す。

■油性簡易表
インク溶剤:油性
インク素材:染料または顔料、アルコール系溶剤、樹脂、添加剤
インクの粘度:高い
書き出し:かすれやすい
発色性:悪い
書き味:重い 筆圧が必要
ボテ:あり
にじみ:にじまない
耐水性:染料は低い 顔料は高い
耐光性:染料は低い 顔料は高い

■高粘度油性(旧油性)インク
粘度が高い油性インク 「旧油性」「従来油性」などと呼ぶ。
揮発・乾燥に強い ドライアップ(インクの乾燥による故障)が起こらない 書いた文字が変質しにくい。また筆記距離が長い
耐水性に強い 耐水性は高いが、ほとんどの製品が染料インク採用の為耐光性が低いことに注意。
書き味 溶剤の油が粘性を持つ為、書き出し時の掠れや中抜けインクのダマ(ボテ)の発生が避けられない。筆跡の綺麗さは他のボールペンに比べると劣る
筆圧が必要 ただし強い筆圧に耐えうる為、複写式書類の記入に最適。紙質の良し悪しにあまり影響を受けない。
彩度の制約 溶剤が油である為、顔料や染料の発色が悪く色のバリエーションが少ない。
線幅が水性に比べて太め 粘性があるために、ペンチップのボールにインクをつける為にはある程度の大きさと面積が必要になる。

■低粘度油性(新油性)インク
油性インクは粘度が高いのが特徴だが、粘度を低くしたものを俗に「低粘度油性」「新油性」などと呼ぶ。溶剤の配合が油性インクとは大幅に異なる為、従来の旧油性インクの物と特徴や用途が異なる。
2006年ジェットストリーム搭載を契機に主要各社も新油性型に移行しつつある。
低筆圧で書ける:インクの粘度が低く筆記摩擦が低減されている。粘度が高いことによる掠れやダマの軽減し、低筆圧で滑らかに長時間書くことが可能。
耐久性 耐光性:顔料が配合されている事が多く、耐光性に優れる。ただし低粘度油性の場合滲みが発生する可能性がある。

発色が従来油性より優れる
旧油性に比べ発色とカラーバリエーションの幅が広い。
複写式書類の記入に向かない 筆圧をかけたときにペン先が滑り、精密なコントロールが難しい。こうした用途では、旧来の油性インクの弱点が逆にメリットとなる。高級紙など紙がツルツルしている場合も筆記が難しい。
経年劣化・滲み・裏抜け:筆記後に染料と有機溶剤が分離してしまう場合がある。現在のリフィルは改良されつつあるが手帳への記載や文書の長期保存の際は注意。
入手性:コンビニやスーパーなどでも販売されている為に入手が容易。安価な製品が多い為、備え付けや共用品として最適。ただし価格は低粘度油性のほうが高い傾向にある。

■水性インク(ローラーボール)
オートの『水性ボールペンW』(1964年)やぺんてるの『ボールぺんてる』(1972年)が草分けとされる。欧米で先行して普及しており、海外では水性ボールペンをローラーボールもしくはローラーボールペンと呼ぶ。

■水性簡易表
インク溶剤:水性
インク素材:染料または顔料、水、添加剤
インクの粘度:低い
書き出し:かすれない
発色性:良い
書き味:軽い 筆圧を込めずに濃い線が書ける
ボテ:なし
にじみ:にじむ
耐水性:染料は低い 顔料は高い
耐光性:染料は低い 顔料は高い

低筆圧で書ける:粘度が低く、低筆圧で筆記できる。摩擦抵抗もありコントロールしやすい。筆跡が均一で書き出しのカスレ、ダマも発生しない。
カラーバリエーションが豊富:溶剤が水である為に、着色剤の顔料や染料の発色が良く、色の彩度では油性よりも優れる。
 
水分に弱い:溶剤に水を使用していることにより滲みやすい。筆記時に手に被着しやすく配慮が必要。
ドライアップに弱い:蒸発速度が遅く湿度に影響されやすい。ドライアップ防止の為にキャップでペン先を密封する必要がある。
複写式書類の記入に向かない:筆圧が弱くなることから、複写伝票には向いていない。

■ゲルインク
サクラクレパスの『ボールサイン』(1984年)で初めて開発された。中性ボールペンとも呼ばれる。

■ゲル簡易表
インク溶剤:水性
インク素材:染料または顔料、水、ゲル化剤、添加剤
インクの粘度:低〜中
書き出し:かすれない
発色性:良い
書き味:軽い 筆圧を込めずに濃い線が書ける
ボテ:なし
にじみ:にじみにくい
耐水性:染料はやや低い 顔料は高い
耐光性:染料は低い 顔料は高い

油性と水性の性質を兼ね揃えている両性インク ボールペン用インクとして使用される。ゲルの性質によって軽い筆圧ではっきりと濃い線を書くことができる。

粘度の変化:ゲルインクは静止状態では中粘度(高い粘度) 力が加わると低粘度(低い粘度)になるという性質がある。
これはチキソトロピー性(力を加えていくとどんどん液体のようになり、力を抜くとまた固体のようになる現象) を持つゲルにボールペン先のボールの回転による せん断力(ものがずれる力 物体のある面の平行方向に向かってかかる力のこと)により粘度が
低下(ゾル化)することで、水性ボールペンのようななめらかな書き味を再現し、粘度が低い為に滲みやすく裏抜けも防ぐつくりとなっている。
また、上記のチキソトロピー性により紙面に付着したインクは再度ゲルに変化する。つまり再びリフィル内にあったように高粘度の物質に戻ることにより、滲みにくくする性質へと変化する。

ドライアップに弱い・インクの消費が早い:水性インクと同じく蒸発速度が遅く湿度に影響されやすい。
ゲルインクは色を出すための本来のインクに加えてゲル化剤を含むため、いわば水増しされて薄まった状態になっている。
そのため筆記の際には油性ボールペンや水性ボールペンに比べて大量のインクを消費する必要があり、結果インクの減りが非常に早い。

■エマルジョンインク(油中水滴型インク)
21世紀にゼブラによって開発された新たな種類のボールペン。
エマルジョンは、油性溶剤をベースに水性染料を水滴化して溶剤中に浮遊させ、油性の耐久性と、水性の滑らかな書き味や発色濃度の高さを併せ持っている。
油性7水性3の割合で混合(乳化)した状態で安定させることにより、水性の滑らかな書き味と、油性の鮮やかで濃い筆記線を両立している。(油中水滴型エマルジョンインク)つまりエマルジョンインクの最大のメリットは書き心地と耐光性、耐水性の融合と言える。
水性インクは溶剤に水が用いられている為に滲みや裏抜けが発生する。それを抑える為に耐水性の良い顔料を着色剤に使用したり、ゲル化して粘度を持たせて防止する方法が採られている。
エマルジョンは、溶剤が油なので、滲みや裏抜けし難い特徴を持ち、油性の欠点である書き味の重さや発色の低さを、水滴化した水性染料で補っている。ベースが油なので、耐水性が優れる為着色剤に染料を使用することが可能。
インク溜まり:紙質や筆記環境によって若干のインク溜りができるケースがある。

■フリクションインク(消せるボールペン)
筆記を消せる:パイロット「フリクション」シリーズが主な商品。フリクション(Friction)とは、英語で「摩擦」「衝突」等を意味する名詞、および「こする」「摩擦する」等を意味する動詞。
温度変化により色が変わるインクを使用しており、ペンの後ろについているラバーでこすることにより、摩擦熱で筆跡は無色となり消すことができる。
ロイコ染料と呼ばれるインクの「赤」や「黒」の色を決める成分と、顕色剤と呼ばれるロイコ染料を発色させる電子受容性化合物に最適化された変色温度調整剤を均一に混合したインクの事(メタモカラー)
一定の温度に達した場合発色を抑制し消えたように見えるが、インク自体が消滅したと言う訳ではなく低温度にすると再度発色を開始する。
公文書の使用不可:容易に修正できる為に公文書偽造などの不正も多発している。最近は大学などの入学願書などでも、「消せるボールペンの使用禁止」の注意書きがみられる。→公文書への使用
熱に弱い 60度以上の温度に触れるとインクが無色透明化に変化する。具体例としてはドライヤー・暖房機器・車のダッシュボード・パソコン・温めたお弁当・缶コーヒーなどなど60度という温度は意外と身近に存在する。
もしも誤って消えてしまった際のリカバリー案として再度冷やす手段が存在する。フリクションインキは-10度以下になると元の色が復元し始め、-20度前後になると完全に色が戻るという特性を持っている為、家庭用冷蔵庫の冷凍室などマイナス10度以下の環境下に置くことで復元が可能。
しかし極端な高温や強い紫外線の直射などにより、インキの成分そのものが破壊されてしまった場合は色を復元できない。

■公文書への使用
公式文書に使用する際は、使うボールペンのインクが、耐水性や耐光性など、日本工業規格(JIS)における品質要求(公文書用)を満たしている必要がある。
フリクションシリーズやユニボールR:E等の消せるボールペンの他、エナージェルやサラサドライのような水性染料インクを使用しているペンは公文書に使用できない。
こうした各ボールペンの公文書への対応状況は、各メーカーが情報を公開している他、有志のサイトも存在している。
※参考 ボールペンManiax https://ballpointpens.wiki.fc2.com/


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