★消しゴム

●消しゴムとは
主に鉛筆などで書かれたものを消去するときに使う文房具。
現在は「プラスチック字消し」が主流であり、正確には「字消し」と呼ばれる。

●種類
■プラスチック字消し
プラスチック(主として、ポリ塩化ビニール)から生成した消しゴム。
ポリ塩化ビニール(polyvinyl chloride PVC)を加熱、更に可塑剤フタル酸エステル(フタレート)を添加したものが多い。
可塑剤により軟化する為(可塑化)に消しゴムの形成が容易になり、様々な形状の消しゴムが作成できる。
プラスチックを使うことで匂いや色を付けることもでき、消しくずがすみやかに出るため消字性能が高い等の利点もあるが欠点もある。

*ポリ塩化ビニールとは ビニール 塩ビなどと呼ばれているプラスチック素材。ポリエチレンなどと共に多用される素材の一つ。

*可塑剤(かそざい)とは ある材料に柔軟性を与えたり、加工をしやすくするために添加する物質のこと
可塑剤が使われている消しゴムはプラスチック消しゴムのみ。

PVCと可塑剤についての議論
PVCの安全性を巡り各国で大きな議論を呼んだ。
1990年台になりダイオキシン発生の主要発生源や環境ホル
モンなどの影響が考えられるようになり社会問題として浮上し不買・排除運動にもつながった。
その後の調査により焼却時の不完全燃焼によりダイオキシンが発生すると発覚する。
ダイオキシン対策特別措置法が設置され、一定レベル以上のダイオキシンを発生させる焼却炉の使用が禁止となった。

フタル酸エステル(フタレート)の問題
20世紀末頃、環境ホルモンへの関心が高まる中、PVCに含まれる可塑剤のフタル酸エステルも人体に影響を与える物質として取り沙汰されるようになる。
フタル酸エステルは油脂を含んだ食品中へ溶け出す可能性があり、食品が直接触れる容器や包装、ソフビ人形などの「乳幼児が口に接触することをその本質とするおもちゃ」
に対しても使用が制限されるようになる。

2003年の環境省検討会は、フタル酸エステルには環境ホルモン様作用が確認されなかったと発表したが、
それでも自主的にPVCやフタル酸エステルを使用しない企業が増えている。→非塩化ビニル

可塑剤の移行:可塑剤の移行とはプラスチック成形品と可塑剤の多く入ったゴムや塩ビを使った製品が長期間接触し続けると、
その可塑剤がプラスチック成形品に移行し融合、製品を劣化させてしまい、いろいろな不具合を生じさせる現象を指す(例としてプラスチック筆箱や定規などと融合してしまうケースが多い)
可塑剤が移行しないように消しゴムはスリーブへの収納が推奨されている。
プラスチック消しゴムの字消し性能は、フタル酸系可塑剤のベンゼン環と黒鉛の六角形構造の間に働く分子間力に起因するものであるので、この欠点の克服は不可能である。
*スリーブとは (sleeve) 袖または容器という意味の英単語。ここでは消しゴムのケースを指す。
消しゴム本体の角がスリーブに食い込むことを防止する為に角がカットされている商品もある。メーカーはスリーブが付けられなくなるほど小さくなったタイミングが消しゴムの替え時の目安としている。

非塩化ビニル(NON・PVC)
環境負荷を軽減する商品として、合成ゴム系などの非塩化ビニル(non PVC、PVCフリー)の消しゴムも多くのメーカーで製品化されている。
かつてのnonPVC消しゴムは消字力が低いものが多かったが現在ではプラスチック消しゴムに近い消字率90%台も実現されている。
またPVC製と違い移行性が無い為にスリーブが不要。臭い付き消しゴムなど子供の誤食が想定される商品は非塩ビ製のものが多い。
配合剤の一部としてホタテの貝殻(炭酸カルシウム)を利用している製品もある。

■ゴム字消し
ラバー消しゴム 天然ゴム(ゴムの木の樹液)やファクチス(植物油や魚油を加硫して得られるゴム状物質)を主成分として、加硫で弾力が与えられた消しゴム。
新しいものではスチレン系やオレフィン系の合成ゴム(熱可塑性エラストマー)も使われる。
シャープペンシルのキャップ内部や鉛筆の頭部などに付けられる消しゴムには、減りが少なく強くて折れにくいゴム字消しが用いられる。
*加硫とは ゴム系の原材料を加工する際に弾性、強度を高めるために硫黄等を加える工程のこと

■砂消しゴム
珪砂などの研磨剤を含んだ消しゴムで、インクの浸透した部分を紙ごと削ることによって消す。砂消しゴムも研
磨砂を担持する接着力と紙を削る機械強度を要求されるため、天然ゴムで作られる。
*珪砂とは けいさ 珪石を破砕して砂状にしたもの。ガラスの原料。

■練り消しゴム
美術のデッサンやパステル画で使用される消しゴム。柔らかく紙を傷めない反面、消字性は劣る。押し付けて消したり、変形させて利用することができ、消しくずが出ない。
ゴム材料に加硫せずに作られる。また、子供向けの玩具としても販売されており、香料などが含めれている商品が多い。→玩具系

■電動字消機
主に製図などに用いられるものとして、先端に専用の円柱状の小さな消しゴムを取り付けて電気による振動や
回転によって字を消す電動字消器がある。

■玩具系
消すことに主目的を置かない消しゴムもある。例としてはスーパーカー消しゴムや漫画のキャラクターや食べ物などを模した消しゴムが挙げられる。
これらのものには、成形ディテールを優先するために可塑剤を減量して強度を増したことにより、字消しとしての性能が犠牲になっているものがある。
それらは文房具というより、文具流通を利用した、学校に持ち込めるおもちゃという側面が強い。

●原理
鉛筆で書いた部分には黒鉛(鉛筆の芯の成分)が付着する。これが紙に字や絵が書かれている状態である。
消しゴムでこれをこすると、ゴムが紙に付着した黒鉛を剥がし取りながら、消しゴム本体より消しくずとして削れ落ちる。
さらにその消しくずが紙から黒鉛を剥がし取りつつ、包み込んで取り除く。紙からは完全に黒鉛が除去されて消しくずに移行し、消しゴムには新しい表面が露出する。
以上のサイクルで消しゴムが減り、消しくずが出て字が消える。

ボールペンなどのインクで書かれた線は、インクが紙に染み込むために通常の消しゴムで消すことはできない。
砂消しゴムは、ゴムに研磨砂を配合してあり、インクを紙ごと削ることによりこれを消すことを可能にした製品である。
また近年では、書いてすぐには紙に染み込まない高粘度インクを利用した、筆記後短時間なら通常の消しゴムで消せる筆記用具も実用化されている。

●歴史
西洋の人々が天然ゴムを知るようになったきっかけは、コロンブス。1493年から行われたアメリカ大陸への第二次航海で、原住民がゴムボールで遊ぶ人々の姿を報告したのが最初である。
しかし、産業利用はそこから数百年間進まず、利用価値も見出されず希少品として扱われるのみだった。
鉛筆はすでに発明されていたため(1564年)鉛筆を消す際はかつてはパンが使われていた。鉛筆の開発から消しゴムの誕生まで実に200年近い大きなタイムラグがあった。
1770年、イギリスの科学者ジョゼフ・プリーストリー(酸素の発見者として有名)がブラジル産のゴム(カウチュークcaoutchouc 涙を流す木という意味の原住民語から由来)
に紙に書いた鉛筆の字を消し去る性質があることを発見したのが消しゴムの始まりである。インディア・ラバーと名付け使い出された。
しかし、当時の製品は高熱で粘着し、冷寒では硬直する、腐敗するなどの欠点があった。
その後チャールズ・グッドイヤーにより、サブスチチュート(植物油に硫黄を混ぜて粉状にした物)が発見されて、現在の消しゴムの基ができた。
加流法で造られたゴムは、120度の高温でも弾性を保ち、零下30度でも特質を失わない製品となる。

2年後の1772年にはイギリスで初めて角砂糖ぐらいの大きさの消しゴムが売られるようになった。rub out(こするもの)と呼ばれた。
これが、今日ゴム一般を意味する英単語ラバー(rubber)の語源である。その後消しゴムは、イギリスからフランスへ、さらに全ヨーロッパから全世界へと広まっていく。
塩化ビニールを原料としたプラスチック字消しは、1950年代になってようやく登場する。

●日本メーカーの展開
日本に消しゴムが渡ってきたのは明治時代。明治初期の輸入奨励案によって、浮き袋、風船、ゴム枕などと同時に輸入される。
同時も明治政府により義務教育が実施され(明治5年 1872年)大量の鉛筆と消しゴムが必要となり文具の輸入が高まったことが背景にある。
毛筆文化中心の当時の日本には国産品の消しゴムはなく、全てを輸入に頼っていた。 国産のゴム製造は明治大正時代から行われている(諸説あり)

国産消しゴム誕生の諸説
各社消しゴムメーカーがまちまちの記述を行っていてはっきりしない点が多い。
明治初期:明治時代初期は輸入に頼っている。明治23年(1890年)輸入開始との説もある。
明治19年(1886年):東京の町工場で制作の記録がある。東京・本所の土谷(つちや)ゴム製造が消しゴムに近いものを製造したという。
しかし品質に難があり実用には至らない。あくまでメインは諸外国からの輸入に頼っていた。

明治26年(1893年)頃:この年から製造開始の説もある。三木ゴムがシードゴム工業に改称しそれまでゴムチューブやマット、ホースなどを作っていたが消しゴム専業メーカーとして再スタートを切る。

明治42年(1909年)頃:東京本所の土谷ゴム製造梶i後の三田土ゴム)大阪で吉田元治郎氏が製造を開始したという説。
製法はきわめて単純で、厚さ6oの鉄板に練ったゴムを挟み、加重して圧縮したものを乾燥釜に入れて加硫し、適当な大きさに包丁で切断するだけのもので大量には生産できなかった。
その後、数多くの製造業者が参入したが配合とゴム質が難しく廃業する業者が続出。

大正3年(1914年) :田口消しゴム製造所(現 田口ゴム工業)が創立。続いて三木ゴム(現 シード SEED 1915年創立?) 白髪ゴム(現 ヒノデワシ)が製造を開始。

昭和3年(1927年):製図用消しゴム日本製 第1号が完成。

昭和20年(1945年):終戦。入手可能なゴム材料がごくごく限られ、配合も当てずっぽうに近く、形は出来ても、字を消そうとすると、紙の方が破れるような按配だったとのこと。

昭和27年(1952年)または昭和29年〜31年頃:軟質塩化ビニル樹脂により消す効果を高める技術開発に成功。その製造特許を取得し、昭和30年代に製造販売が開始される。

昭和34年(1959年):シード社が世界で初めて開発プラスチック消しゴムを開発、販売されプラスチック消しゴムが普及。以後その性能から市場の主流となる。
黎明期の消しゴムメーカーには共通の悩みがあった。天然ゴムは自然素材だから価格の相場変動が激しく、品の品質を安定させるのにも苦労していた。
天然ゴムに代わる新しい素材はないかと模索していた所、あるところから軟質塩化ビニルを使うというアイデアが持ち込まれた。
消しゴムの条件とは、紙面に圧着した鉛筆の黒鉛をうまく吸着し、なおかつ消しゴムの表面がきれいに削れること。
軟質塩化ビニルを使えば、それが可能になるかもしれない。詳細は不明だが、このアイデアは複数の消しゴムメーカーに持ち込まれたらしい。
ほぼ同時期に、数社でプラスチック消しゴムの開発が進んでいく。

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